7routeplanet

写真と七辻脳内白描図

スマートフォンの電源を落として過ごした最初の夜の夢

自宅を出て、駅の方角へ向かう道は、高速道路と雑居ビルの谷間。

空は夕暮れの青空を真似て、焼けることはない。

また、今日も何も生み出せないのだと、カメラを片手に歩く。

駅への道から逸れて、廃車両の横たわる荒れ路地を進む。

唯一生きている路線が頭上の線路を喧しく叩いた。

 

もう一度、私は空を見上げる。

暮れなずむ西の空から東に連なるビルの谷間へと色が冷えていく。

 

冷えて掛かる夜の帷。その裂け目から、一番星がひっそり輝く。

その位置なら金星か。カメラを向けて様子を伺う。

しかし、辞めてしまった。撮りたい姿を撮るには何もかもが足りない。

 

道の途中で創作仲間と出会う。

合同オフ会に呼ばれたから行ってくるのだという。

別れの挨拶がわりに右手を振り、創作仲間が立ち去っていく。

今は紙も鉛筆も持っていないし、私は多分、呼ばれて居ないはずだ。

 

再び一人となって歩き進む廃車両の荒れ路地は、私一人の人影が延びる。

一本だけ生きている路線は緩やかに曲がり、山奥へと飲み込まれていく。

乗り物の天井は、空が見えないだろう。

これほどまでに見事な夜の帷を誰も見ていないなど、誠に残念なことだ。

そう思ったかどうかは覚えていない。

ただ、単純な青色として言い表したくない空のグラデーションが、だんだんと藍色を纏って地平線と同化していた。

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眠れないこと自体は苦痛ではない。寝転がり、目を閉じて、思考を遮断すればいい。

スマートフォンを持ち歩くのが嫌になってしまった。

明日は家に置いていこうと思う。

明日になったら気が変わるかもしれないが。

f:id:fiyalzha:20201029235152j:imageShine to insomnia

眠らない光。

そういう意味を込めている。

眠れない光か。

 

夜明かりは、いつもこつこつと時を刻みながら足音を立てる。

その音は、いつも乾いた音。

いつしか部屋を訪れて、ぱちりと夜を鳴らしてくれる。

 

夜は暗がり。

部屋の照明も消えて、夜明かりは夢路へと誘ってくれる。

 

眠れなくとも心配ない。

眠れないなら、眠れなくてもいいんだ。

寝転がって、からだを楽にして。

小さな音でもいいから音楽をかけて。

深く考えようとする思考を邪魔してやればいい。

 

邪魔をされた思考はやがて鈍り、微睡みを引き連れてくる。

念のため、目覚まし時計はいつも通りかけておくといい。

気がつけば、からだもあたまも、とりあえずはリセットされるはずだ。

 

あとは、朝飯に何か温かいものでも。

スープでもいい。

面倒なら、白湯でもいい。

冷たいものより、温かいものがいい。

微温めの水道水でもいい。

 

家を出る時間より、ほんの少しだけ早めに起きられたなら、それを素直に喜ぶといい。

目覚ましより早く起きたなら、早起きが出来て良かったと思えばいい。

 

温かなものを飲んで。

明日の日を、行ってらっしゃい。

あなたが今日も、健やかでありますよう。