コンクリート打ちっ放しの柱に支えられた線路に沿って、目の前を東海道線に似た列車が通過していく。 明日仕事があるにもかかわらず北海道まで来てしまった。仕事の時間までには戻るつもりだが、本当に戻れるかどうかは定かではない。 夜は更けて、半円を描…

電車のドアの片隅に立っていると、ドアに映る自分の片目を、もう片方の目で眺めることがある。 片目は視線を交えずやや斜め向こう側を見つめ、あれが右目と左目の差異なのだと気付く。 そして同時に、右目と左目はその視線を交えることは決してないことを知…

御衣黄と呼ばれる桜がある。 読みは「ぎょいこう」、最近では名を知られるようになったものの、何処に咲くのか、また存在を知らない人も多くない。 御衣黄 桜といえば極淡の紅色をした、いわゆる「桜色」の花弁を連想するが、これは黄桜、鬱金桜などの黄色い…

児童公園の桜の木は、青いベンチの端に爪立てば、とどくかとどかないかの枝葉を揺らして幼い指さきをもてあそんだ。その枝先には、ひとかたまりの桜が四方八方へ向けてここぞとばかりに花開いている。 青いベンチに、片足をずった爺が腰を下ろしてはにかんだ…