自宅を出て、駅の方角へ向かう道は、高速道路と雑居ビルの谷間。
空は夕暮れの青空を真似て、焼けることはない。
また、今日も何も生み出せないのだと、カメラを片手に歩く。
駅への道から逸れて、廃車両の横たわる荒れ路地を進む。
唯一生きている路線が頭上の線路を喧しく叩いた。
もう一度、私は空を見上げる。
暮れなずむ西の空から東に連なるビルの谷間へと色が冷えていく。
冷えて掛かる夜の帷。その裂け目から、一番星がひっそり輝く。
その位置なら金星か。カメラを向けて様子を伺う。
しかし、辞めてしまった。撮りたい姿を撮るには何もかもが足りない。
道の途中で創作仲間と出会う。
合同オフ会に呼ばれたから行ってくるのだという。
別れの挨拶がわりに右手を振り、創作仲間が立ち去っていく。
今は紙も鉛筆も持っていないし、私は多分、呼ばれて居ないはずだ。
再び一人となって歩き進む廃車両の荒れ路地は、私一人の人影が延びる。
一本だけ生きている路線は緩やかに曲がり、山奥へと飲み込まれていく。
乗り物の天井は、空が見えないだろう。
これほどまでに見事な夜の帷を誰も見ていないなど、誠に残念なことだ。
そう思ったかどうかは覚えていない。
ただ、単純な青色として言い表したくない空のグラデーションが、だんだんと藍色を纏って地平線と同化していた。