歌詞。
赤い傘が土砂降りの中を駅へ急いで行く。
つま先で跳ねる泥水が裾にかかって黒灰のまだらとなる。
思い出が転がっていて、彼女をふと呼び止めた。
『お願い。これが最後で構わないから、その傘を差して頂戴』
最初は「あぁ、ただ薄汚いだけのぼろ切れ」なんて淡々と思っていた。
それくらい、興味なんてなかったから。
汚れた翼につつかれて喚いたんだ。黒い月の沈む夜に。
命なんてどうでもよかった。
皆、他人事だと、素知らぬふりだったから。
「君が差し上げた赤い傘だ」
彼は笑ったんだ。黒い髪を揺らしながら。
さんざめく星に呼ばれて、その白い手が広い背中を押す。
どうにもならない宵すら超えて、下闇たちが翻る。
たったひとつの勇気振り絞るくらい、できるはずだと思っていたんだ。
足がすくんで、歯を食いしばって、両手が震えて止まらない。
この背中を押してくれたなら。
その一歩を踏み出す勇気があれば。
君を助けてあげられたかな。
今は、届かない右手を前に。
じっとり濡れた段ボール箱で、弱々しい鳴き声がする。
きっともう食べる気力もない。
雨の雫もおなかの足しにならない。
私に育てる力はない。
生き物を育てたこともない。
あの赤い傘を思い出す。
取り上げた腕が抱える命が、あの後どうなったかなんて知る由もないけど。
どうか救われていてほしい。
どうか、助かっていて欲しい。
残された赤い傘が風に飛ばされて宙を飛んでった。
お前に責任なんて取れるものか。
どうせ、助かりはしないんだ。
誰もが素知らぬふりをする。
足音も遠ざかる。
これでいいよって。
どうせ私には何もできないんだからさ。
そんなの、やってみなくちゃ分からないのに。
どうして、先に諦めるの。
白い手が、私の背中を押したんだ。
踵を返して、箱の前で立ち止まった。
赤い傘を差し出して、幼いからだを抱き上げた。
どうすればいいかわからなくて、病院に行けばいいとか思って。
土砂降りの中で水飛沫散らして、ただひたすらに駆けたんだ。
たったひとつの勇気振り絞るくらい、できるはずだと思っていたんだ。
足がすくんで、歯を食いしばって、両手が震えて止まらない。
この背中を押してくれたなら。
その一歩を踏み出す勇気があれば。
君を助けてあげられたかな。
あそこに取り残した赤い傘は、きっともう二度と返らない。
「もう大丈夫。大丈夫だから、どうかもう少し頑張って。ね」