7routeplanet

写真と七辻脳内白描図

【赤い傘】

歌詞。

 

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 赤い傘が土砂降りの中を駅へ急いで行く。
 つま先で跳ねる泥水が裾にかかって黒灰のまだらとなる。
 思い出が転がっていて、彼女をふと呼び止めた。

 

『お願い。これが最後で構わないから、その傘を差して頂戴』

 

 最初は「あぁ、ただ薄汚いだけのぼろ切れ」なんて淡々と思っていた。
 それくらい、興味なんてなかったから。
 汚れた翼につつかれて喚いたんだ。黒い月の沈む夜に。


 命なんてどうでもよかった。
 皆、他人事だと、素知らぬふりだったから。
 「君が差し上げた赤い傘だ」
 彼は笑ったんだ。黒い髪を揺らしながら。


 さんざめく星に呼ばれて、その白い手が広い背中を押す。
 どうにもならない宵すら超えて、下闇たちが翻る。


 たったひとつの勇気振り絞るくらい、できるはずだと思っていたんだ。
 足がすくんで、歯を食いしばって、両手が震えて止まらない。
 この背中を押してくれたなら。
 その一歩を踏み出す勇気があれば。


 君を助けてあげられたかな。
 今は、届かない右手を前に。


 じっとり濡れた段ボール箱で、弱々しい鳴き声がする。
 きっともう食べる気力もない。
 雨の雫もおなかの足しにならない。
 私に育てる力はない。
 生き物を育てたこともない。


 あの赤い傘を思い出す。
 取り上げた腕が抱える命が、あの後どうなったかなんて知る由もないけど。
 どうか救われていてほしい。
 どうか、助かっていて欲しい。
 残された赤い傘が風に飛ばされて宙を飛んでった。


 お前に責任なんて取れるものか。
 どうせ、助かりはしないんだ。
 誰もが素知らぬふりをする。
 足音も遠ざかる。


 これでいいよって。
 どうせ私には何もできないんだからさ。
 そんなの、やってみなくちゃ分からないのに。
 どうして、先に諦めるの。


 白い手が、私の背中を押したんだ。
 踵を返して、箱の前で立ち止まった。


 赤い傘を差し出して、幼いからだを抱き上げた。
 どうすればいいかわからなくて、病院に行けばいいとか思って。
 土砂降りの中で水飛沫散らして、ただひたすらに駆けたんだ。​


 たったひとつの勇気振り絞るくらい、できるはずだと思っていたんだ。
 足がすくんで、歯を食いしばって、両手が震えて止まらない。
 この背中を押してくれたなら。
 その一歩を踏み出す勇気があれば。


 君を助けてあげられたかな。

 

 あそこに取り残した赤い傘は、きっともう二度と返らない。

 

「もう大丈夫。大丈夫だから、どうかもう少し頑張って。ね」